宮大工職人
八野大工 八野泰明 氏
屋台は全職人の仕事。チーム高山としてのブランド力を高めたいですね
型板を取るため、若き宮大工は板張りの床で図面を引いていた。
「ここは原寸引きという図面を引く作業をすることが多い作業場で。メインの仕事は別の工場(こうば)なので、そちらに案内しますね」。
作業場から車で5分ほどの場所に八野(はちの)さんの工場はあった。数人の職人が各々の作業に集中している。
「私も部材に手をかける仕事はしますが、納期の管理やスタッフのマネージングなど、今は監督業務の方が多いんです」。
工場の別棟には無数の材木が並ぶ。
「屋台にはヒノキ、ケヤキ、ミズメ、クリなどが使われます。高山の屋台は背が高いので、軽量のキリも重宝される。良質な木や材種が豊富なのは、高山ならでは」。
高山の工業高校の建築科を卒業し埼玉で約8年研鑽を積んだ。
「御礼奉公として最後の年に寺社一棟を任され、周囲に助けられて棟梁を勤め上げて。その修行が今の監督の仕事にも活かされています」。
周囲との連携が不可欠なのは屋台の仕事も同じだ。
「塗師、彫師、錺(かざり)師、鍛冶師それぞれの技があってこそで、宮大工だけでは成立しない。屋台は全職人の仕事として評価されます。高山はさまざまな職人がそろう恵まれた環境。そんなチーム高山としてのブランド力を高めたいですね」。
宮大工の父を見て自然とこの道へと進んだ。
「実は父から直接教わったことは少ない。でも今修復している大国台(だいこくたい)の柱に父の仕事が遺っていて。やっぱり勉強になりますね」。
父の技は子へとしっかり引き継がれていた。
「僕の子どもたちは屋台を作るんやって言ってくれますけどね。自分がそうだったように、自然とこの道を選んでくれれば。そのためにも自分の代で終わらないよう、宮大工をしっかり続けなきゃ」。
職人はその技が注目されがちだ。
「技も大切ですが大事なのは気持ち。屋台は重要な文化財だし、とくに巨大な材木だと圧倒されやすい。『木に負けない』と我われ大工は表現しますが、宮大工には強いメンタルが必要なんです」。
屋台における宮大工の仕事は解体・組立・修復が主だ。
「彫物や錺金具などと違い、実は宮大工の仕事は地味で目に見えづらい。でも、無事に屋台が引かれていること自体が、我われの仕事の成果なのかもしれませんね」。
屋号 | 八野大工 |
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名前 | 八野泰明 |
住所 | 岐阜県高山市片野町1-117-1 |
電話 | 0577-34-3205 |
プロフィール |
高山の工業高校の建築科を卒業し埼玉で約8年研鑽を積む。その後26歳で高山に戻り、父の宮大工業を受け継ぐ。高山の屋台の解体・組立・修復をはじめ、他県からの寺社仏閣の依頼も多い。
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高山祭
日枝神社の例祭である春の「山王祭」(毎年4月14日・15日)、桜山八幡宮の例祭である秋の「八幡祭」(毎年10月9日・10日)の二つの祭を指す総称。300年以上の歴史を誇る。高山祭や祭屋台は「国指定重要無形民俗文化財」「国指定重要有形民俗文化財」に指定。高山祭の屋台行事を含む国内の山・鉾(ほこ)・屋台行事は「ユネスコ無形文化遺産」に登録。
高山の屋台
大工・漆・彫刻・錺(かざり)金具・鍛冶など高山の職人の技術の粋を集めて作られた傑作。曳(ひ)き廻(まわ)しといった伝統行事などが行われる屋台は高山祭の象徴的な存在。春の山王祭の12台、秋の八幡祭の11台の計23台が現存。